朝見は読んでびっくりした。これは一体なんだ？　Ｎ物産の上層部での不正経理の実態だ。上層部は不正をただすために意見を述べる本多を排除したのだな。
　この資料があれば、Ｎ商事の悪事を正すには十分だろう。

　でも、この資料をどうしよう。へたに資料を出せば、江藤女史の名前も明るみに出てしまう。
　その夜、帰ってきた兄と相談するのだった。

「兄さん、ちょっとお見せしたい資料があるんだけど。ちょっと相談に乗ってほしいんですが」
「ちょっと待て、夕食と風呂くらい、時間をくれよ。あとで君の部屋へ行く」
　やがて朝見の部屋へやってきた兄は、パソコンの画面をじっくり見て言った。

「うん、これは、Ｎ物産の不正の資料だな。Ｎ物産には経理上の問題で、検察としても少しばかり興味を持っているんだ。うん、これが池袋の殺人事件の背景だな。池袋の事件には検察としても、少しばかり関心を持ってる。うん、これがあれば十分に捜査に貢献できる。取り仕切っているのは社長室長だな。突破口は社長室長だな。よくわかるよ。ところで、充彦、この資料はどうしたんだ」
　朝見は兄にすべてのことを語った。
「そうか、鯖街道の女からの提供か。それで、名前を秘しておきたいわけだな。よし、判った。そのＳＤカードはわたしが預かろう。これはわたしから警視庁へ渡そう。
警視庁主体でやらそう。充彦、お前はこれ以上手を出すな」

　数日後、警視庁が動いた。Ｎ物産の社長室長桜井を特別背任の疑いで警視庁・捜査二課が任意同行を求め、そして逮捕した。取調べには池袋署の堀越係長が同席した。不正経理の件もあるが、本多の事件のことを重要視したのだ。背後には検察の意向があった。
　桜井室長は、資料を突き付けられ、ワンマン社長とつるんで行っていた不正のすべてを自供した。その時、進言してきた本多を亡き者にして、発覚を隠そうとしたこと。社長のよく知る総会屋と相談したことなどを。かれらは直接手を下していないが、事件の背後にいたことは確実だ。
　彼の自供から、ワンマン社長も逮捕され、総会屋が、二人の殺害の容疑で逮捕された。

　これで、事件は決着したのだった。