第六章　事件の決着

　朝見の勧めにより、池袋署では新宿署の強力も得て、新宿の小さな事務所を精力的当った。急に契約解除されたり、不審な行動があったりした事務所を重点的に当たったのだ。その結果、本多が亡くなって一週間後に契約破棄された事務所が見つかった。
　事務所は、パソコンと机ががあるだけ。簡素な事務所だった。週末には一人増えていたが、いつもは一人だけだった。契約は一か月単位で、期日までに家賃が支払わなければ、借主の承諾なく、一方的に契約破棄できる条件だった。
　ある日、そろそろ賃借料が払われる頃、家主が確認に訪れたとき、内部は空っぽだったのだ。誰が、いつ、どうして引き払ったのか？
　不審に思っていた家主だったが、実害はないし、そのままにしておいたのだった。

　池袋署の捜査員が契約書を調査したが、借主の身分は判明しなかった。偽名だったらしい。ただ、家主は本多の写真を見て、見たことがあると言明した。韮崎で死んだ市川の顔にも何度か見たことがあるようだといった。
　一方、Ｎ物産の調査は思うように進まなかった。本庁の捜査二課の応援を得て、Ｎ物産の経営状況を調べた。経理上の不備等は見つかった。ワンマン社長の横暴が目に付いたが、創業者が社長の会社なら、よくあることだった。
　しかし、新宿の小さな貸事務所とＮ物産の関係ははっきりしない。不信を抱く池袋署の堀越だったが、そのままになってしまった。
　堀越からその結果を聞いた朝見だったが、彼にも手の打ちようがなかった。

＊

　それから一か月ほどして、朝見のところに江藤女史から電話が入った。
「朝見さん、一度、お会いしてお話したいことがあるんですけど。今度の土曜日、いかがでしょう。よければ古河庭園をご案内していただければ嬉しいんですけど。午後一時に古河庭園の入口で待ってます。古河庭園へは一度行きたかったので。要件はその時にお話します」
　江藤女史に事件について報告すべき内容がなく、連絡を渋っていた朝見には渡りに船だった。
「いいですよ。じゃ、一時にお会いしましょう」
　土曜日の午後、早めに行った朝見だった。もう、江藤女史は来ていた。
　二人は古河庭園を散策するのであった。