翌日、朝九時過ぎに、朝見は出発した。韮崎まで二時間ほどだ。
　十二時には韮崎駅に着いた。しばらく待ってやって来た長谷川部長刑事と合流した。

「朝見さん、ご苦労さんです。実はあれから署内で検討して、今、Ｎ物産の経営状況を調査しているんですよ。どうやら、いろんなことがあるみたいですね。特にワンマン社長の動向が気になるんですよ。まだ、結論は出てませんがね」
「そうですか、それが事件解決の糸口になればいいんですけどね」
　少し走って、韮崎署に着いた。
　どうやら、池袋署から詳細に連絡があったみたいだった。署長以下、幹部が勢ぞろいして待っていた。
「やあ、朝見さん、お待ちしていました。池袋署の堀越さんから事情は訊いています。朝見さんのお兄さんのこともきいています。事件の詳細は、高山君が説明します。よろしく」
　紹介された高山部長刑事が事件の詳細を説明してくれた。

　ーー被害者が新府城址で殺害されたこと。頭部打撲のうえ、絞殺だったこと。甲府駅から車で行動し、韮崎市内をアチコチ移動していたこと。車は横浜での盗難車だったこと。ナンバープレートも盗難だったこと。被害者は週三日、派遣社員だったこと。残りの二日の行動が不明だったとのこと。税理士だったこと。そこそこ裕福だったらしいこと。貯金も結構あったこと。甲府では、別の男と行動していて、甲府駅で別れていたこと。行動を共にしていた男については詳細が不明だったこと。車は諏訪湖ＳＡで発見されたこと、などを説明してくれた。
　そして、手がかりがなく、迷宮入り寸前だということも説明してくれた。ーー

　ついで、長谷川が池袋での事件の詳細を説明した。

　共通点は車やナンバープレートが盗難品ということ。いずれも中央道のＳＡで乗り捨てられてあること。指紋等がきれいに消されていることだった。

　じっくり聞いた朝見が言った。

「この二つの事件、なんか関連がありそうですね。まあ、僕の勘ですが。何かそんな気がします。彼、市川さんの週末二日の行動は判らないんですね。そこに手がかりがありそうですが。まあ、ここから東京へ出かけての長期の捜査は大変でしょう。どうです、長谷川さん、池袋署でそこらを重点的に捜査してはどうですか。新宿近くの会社、と言うより、貸事務所みたいなところを重点的にあたってみては。税理士さんで、そこそこ裕福な生活をしていたんなら、きっと、どこかで何かの仕事をしていたと思いますよ。直接、間接にでもＮ物産との関連を調べてみてはいかがですか」
　長谷川部長刑事が少し考えていった。
「そうですね。どっちにしろ捜査は進んでいないんだから、この際、何でもやるべきですね。どうです、高山さん、韮崎署としても捜査に苦労されてるんですから、朝見さんの話に乗りませんか？」
「わかりました。何かしなければと思っていたところです。早速、課長に相談して進めましょう。その時は長谷川さん、池袋署のご協力をお願いしますよ」

　その後、署長以下幹部をまじえての会議で、捜査方針が決まった。
　署長が「朝見さん、これからどうされるのですか。何でしたら今夜、夕食でもどうですか」
「いや、私は、ルポライターの本職があるんですよ。韮崎の宿場をルポして、新府城址にも行って、甲府もルポしないといけないんですよ。申しわけないが、私はこれで失礼します。捜査でいい結果が出るように祈っています。またお会いしましょう」

　そして朝見は韮崎署を辞して、韮崎の宿場を回った。それから甲府にも行って武田信玄の跡を歩き回ったのであった。