朝見は事件の鍵となる写真を見せてもらった。びっくりした。
　あ、あの女だ。江藤女史だ。やっぱりな。
　朝見の眼の色が輝いたのを、さすが、堀越警部は見逃さなかった。
「あれ、朝見さん、この写真の女になにか心当たりがありますか」
「いや、じつに美人ですね。実は、鯖街道って、つい、先日、ルポで行ってきたとこなんですよ。だから、びっくりしちゃって」
　あえて女の正体は伏せておいた。身分を明かすには、少し、早すぎる。
「そうですか、それで朝見さん、何か意見がありますか。今まで幾多の事件ではいい示唆を頂けたじゃありませんか？」
「そんなことはありませんよ。ぼくは好き勝手なことを言っただけですよ。でも、今、事情をお聞きして二、三点、気になることがあります。
　ご存じじゃないかもしれませんが、山梨県・韮崎市でも困難な事件が起きてるようですね。盗難車が絡んでるそうですよ。確証はありませんが、この二つの事件、なにか気になります。どうです、一度、韮崎の被害者と池袋の被害者の関連がないか、当たってみたらどうですか。
　それと、池袋の被害者の会社、Ｎ物産ですか、経理というか、経営状況と言うか、そのあたりを調べてはいかがですか？　被害者を急に転勤させるなんて何かあるんじゃないですか。
　それから、ぼくは、堀越さんがノーと言えば、止めますが、一度、韮崎へ行ってみようと思います。武田信玄や武田勝頼なんてルポの対象にいいですからね」
「うーん、なるほど、そう考えますか。さすが、名探偵と名の高い朝見さんですね。なあ、長谷川君。ちょっと、違う視点で考え直そうじゃないか。朝見さん、それじゃこれから署内で、今の意見を検討してみます。その結果が出るまで、韮崎へ行くのは待ってもらえませんか。まあ、強制じゃないですけどね」
「わかりました、堀越さんの連絡を待っています」

　池袋署からの帰り、朝見は「日本紀行」へ立ち寄った。
「編集長、どうですか。今度のルポの先は、甲府にしませんか。武田信玄と武田家の推移、武田勝頼の最後、なんて面白いと思いませんか」
「ああ、なるほど。しかし、朝見ちゃんもいろいろと思いつくね。いいよ、近いから取材費もあまりかからないだろうし、まあ、行ってみてくれ」
　これで、経費のめどは立った。

　あとは堀越警部の判断次第だ。でも、ノーであっても行くつもりだった。韮崎署へ寄らなければいいんだから。彼としても、韮崎には興味があるのだ。

　二日後、堀越警部から電話があった。
「朝見さん、韮崎へ行ってくれますか。韮崎署とは話がついてます。ただし、うちの長谷川君も一緒に行きますよ。明日ではどうですか？　朝見さんはどうせ車でしょうから、韮崎駅で十二時過ぎに待ってますよ。いいですか」
「わかりました。お昼ごろ、韮崎駅でお待ちしています」