翌日、朝見は池袋署へ行った。本多の事件の詳細を現場の捜査陣から聞きたかったのだ。
　受付で、事件担当の刑事を紹介してほしいと、頼む朝見だった。
　そこへ、後ろから声が掛かった。
「あれ、朝見さんじゃないですか。今日はなんですか？」
　旧知の間の堀越警部だった。
「ああ、堀越さん、え、赤坂署じゃなかったんですか？　こちらへは異動で？」
「ええ、そうなんですよ。つい、十日ほど前にこちらへ移ったんですよ。今は捜査係長をやってます」
「そうですか。実は、しばらく前に発生したひき逃げ事件のことでお聞きしたくって、お邪魔したんですよ」
「ああ、そうですか。それになんか疑問点でも？　朝見さんが顔を出すんなら、なんかあるんでしょうね。いいですよ、でも、私も異動してきたばかりで、ほとんど知らないんですよ。担当のものを紹介しましょう」
　そして事件捜査を担当している長谷川部長刑事を紹介してくれた。話の席には堀越警部も同席するのだった。
「長谷川君、ひき逃げ事件の件、朝見さんに話してやっくくれないか。おれも、じっくり聞きたいから」
　長谷川部長刑事は訝し気に聞いた。
「係長、捜査の情況を民間の人に話してもいいんですか？」
「あ、君は知らないのか。じつは、朝見さんは検察庁幹部の弟さんなんだ。それにルポライターのかたわら、各地の捜査陣に適切なアドバイスをしてるんだ。わが警視庁管内でも、いろんな事件解決に適切な助言をいただいてるんだ。おれもいろんな情報を提供してもらってるんだ。心配ないよ。それに、もう一度繰り返して事件の全貌を他人に喋ることは、事件捜査の原点に帰ることになるんじゃないか。俺にもいい勉強になるよ」
「そうですか、それじゃ」

　尊敬の目で朝見を見つめる長谷川部長刑事だった。そして事件の詳細を説明してくれた。

　――男が泥酔していたこと。事故に遭う前にバッグを強奪されたこと。横浜に自宅がありながら、池袋に宿泊していたこと。ひき逃げした車は盗難車だったこと。ナンバープレートも盗難品だったこと。事故の直前、急に名古屋支店に転勤したこと。なにか秘密の仕事をしていたらしいこと。以前の勤務先でも問題はなかったこと。所持品は写真一枚だったこと。写真の女の身元は分からないこと、等々を。
　そして、事件捜査は行き詰って、捜査陣は困っているとのことだった。――