やがて、乙が森に来た。
ここには謂れがある。
　大原川の上流にある女郎ヶ淵に身を投げた「おつう」という女性が蛇身となって川を下り、この森で自分を捨てた若狭の領主の行列を待ち伏せして妨害したので、松田源太夫という侍が退治してその尻尾を花尻の森に埋め、頭の方を乙か森に埋めたとも言われている。
　ちょっといい雰囲気だよ。
　ここを左に行くと寂光院なんだ。建礼門院徳子、ゆかりの大原の里だ。
　平家が滅亡した後、我が子安徳帝や平家一門の菩提を弔うため、大原寂光院に移り住んだ建礼門院徳子は、終生この地にて仏への祈りの毎日を過ごしたという。
　行ってみたいな。
　でも、今日は時間がない。
　そのまま通り過ぎる。
　しばらく狭い道を行くと、お、阿弥陀寺があった。ここはいい所だと聞いている。行ってみよう。駐車場がある。ここから歩くのだ。いいね、この参道は。周囲にはうっそうとした木立、脇には清冽な水が流れ、そのまま飲めそうだ。
　苔むした岩や、石碑等が点在する。少しばかり上り坂だが、すずしくていい気持ち。何人か、歩いている。苔むした石段の先に、赤い楓に迎えられた建物がある。この参道は、しずかで涼しくて、最高だね。
　いい感じだ。小さな滝が迎えてくれる。
　脇には巨大な古知谷カエデの木がある。凄いカエデだね。樹齢８００年だそうな。秋にはきっと紅葉が綺麗だろう。
　入山料を払って、境内に入る。迎えてくれるのは小さいが、綺麗な石庭だ。
　こりゃいい。脇には茶室。本堂へと向かう。
　すぐ傍らには石廟がある。薄暗い石窟にはこの寺を開山した弾誓上人がミイラとなって眠っているのだそうな。薄暗く、なんか荘厳な感じがする。凄いとこだよ。本堂も広くていい。
　ここはクリンソウが有名らしい。花が咲く時期に合わせてくればよかった。まあ、しょうがないか。