――死んだのは東京・池袋にある大沢建設の営業担当専務の小杉という男。伊藤博文に心酔していてふぐの解禁日にフグを食べに東京から一人で来たらしい。
一人で飲んで酔っ払って、ふぐの碑を見に行くと言って一人で出たらしい。
ところどころにある監視カメラの映像では酔っ払って倒れて助けられたりしたようだ。
赤間神宮の前の歩道を一人で渡っているところを通りすがりのタクシーが目撃したようだ。
会社も下請けの状況も問題なく、順調だった。
しかし、片桐の心の底には何かが残った。なにか、しっくりこないものが残ったのだ。いくら、私的な旅で、フグを食べに来ただけとはいえ、荷物が残っていないなんておかしいぜ――

話を聞いた朝見だった。

「内容はよくわかりました。確かに少しおかしいですね。池袋の専務の会社をもっと調べる必要があるんじゃないですか。池袋署には知り合いの捜査課長がいますから聞いてみましょう。
それからいま思いついたのですが、事件の日の午後、小倉で偽造免許証でレンタカーを借りた不審な人物がいるらしいです。走行距離は７０ｋｍくらいだったそうです。小倉から下関への往復くらいですよ。昨日私が借りたレンタカー会社で聞いたんですが。なんか気になります。福岡県警を通じて調べてみたらどうですか？

すみませんが、私はこれから門司へ行くんで、これくらいにしてください。何かあったら、かまいませんので携帯に電話してください」
「ありがとうございます。小倉のレンタカー会社はすぐに当たってみます。池袋の専務の会社の件もよろしく。時間を取らせてすみません。今後ともよろしく」

そういって別れた二人だった。
この日の結果が事件解決の大きな要因になるとは思わずに。