さらに調べると、午後の下関駅の防犯カメラに男が確認された。そこから唐戸市場へ行ったことがわかった。競りの観察やら、やっていたようだ。どこから下関まで来たのだろう。
わかった行動はそれだけだった。 

　下関署と山口県警は警察庁へと行方不明者の調査を依頼した。
夕方、電車で下関に来たこと、名前は小杉と思われること、フグが大好きだということ、年恰好等の情報を添えて。
　男の素性がわからないと今後の捜査のしようがない。 

　一週間ほどして警視庁経由で、下関署に男の連絡先が入った。
男は東京・池袋にある大沢建設という会社の専務だった。
会社の経営は順調で、経済的には何らの問題もなかった。
　下関署からの連絡を訊いて、男の会社の営業部長と妻が下関署にやって来た。
下関署の事情聴取に妻は涙を流しながら応じるのだった。

――下関までフグを食べに行くとは聞いていた。男の祖先は萩に住んでいたようだ。場所等の詳しいことは知らない。伊藤博文に、明治維新の立役者に感銘を受けていたようです。でも、こんなところで死ぬなんて、わからない――

　営業部長も状況はよくわからないということだった。
――仕事は順調だったし、よくやっていた。ただし、お酒が好きで、フグを食べたがっていたことは事実だけど。まさか、下関まで来るなんて。
　信じられない。――

　小杉の遺体は下関で荼毘に処し、二人は悲しい思いを胸に東京へ戻ったのだった。
　警視庁でも池袋署を通じて建設会社を調べた。その結果、会社に特に気になるようなことはなかった。順調な業績を残している。問題はないとの判断だった。
　下関署ではいろんな話を総合的に判断し、小杉の死は事故死だと判断した。
そして事件は解決した。

　しかし、下関署の片桐刑事の心の底には何かが残った。なにか、しっくりこないものが残ったのだ。いくら、私的な旅で、フグを食べに来ただけとはいえ、遺留物が残っていないなんておかしいぜ。
　いろいろと考えていると、以前、県警本部にいた時に知り合った朝見の顔が浮かんだ。たしか、検察幹部の弟と訊いている。あのときの朝見の鮮やかな推理と行動力が思いだされた。
　一度、相談してみたいなあ、でも、どうしようか。