プロローグ

 ２００Ｘ年の秋、下関市の唐戸市場近く、赤間神宮の前だった。国道九号をはさんで海岸寄りの阿弥陀公園横の駐車場でのことだった。

赤間神宮は、安徳天皇をお祀りしている神社なのだ。安徳天皇は平家の当主平清盛の娘と高倉天皇との間にできた子供で、源氏と平家の最後の戦いである壇ノ浦の合戦で平家が敗れ、八歳の若さで壇ノ浦の流れに入水した悲劇の天皇。この際、三種の神器のひとつ、草薙の剣も一緒に海に沈んだという伝説もあります。
長い歴史を持つ神社ですが、元々は阿弥陀寺として開かれ、明治期以降に赤間神宮という名前に変わったんだ。だからここは阿弥陀公園っていうんだな。

赤間神宮を散策して車に戻った中年夫婦がいた。

「あ、朝鮮通信使上陸淹留之地の碑、なんてのがあるよ。へえ、ここにねえ。そう言えば目の前は海だよ。壇ノ浦の古戦場跡だよ」
そういいながら海岸を見た。
「あれ、なんか浮いてるよ。おいおい、あれ、人じゃないのか！」
「え、本当よ。大変よ、１１０番してよ」
　あわてて携帯を取り出して１１０番するのだった。