少し寂しそうな感じだった末次を慰めようと、馴染みの平塚亭へ寄って饅頭を買い込んで平塚神社へ行く朝見だった。
　しばらくすると末次が現れた。
やっぱり何か寂しそう。何か考え込んでいるようだった。
「やあ、末次さん、こんにちは。どうかしたんですか、なにか寂しそうですけど」
「ああ、朝見さん、やっぱりそう見えます？ そうなんです。困ったことがあるんです」
「じゃあ、話の前に、平塚亭の饅頭でもどうですか。少しは気が収まるかもね」
「ありがとう、いただくわ」
　近くの椅子に座って饅頭を食べる末次だった。 

　食べ終わって、末次が言った。
「じつは、わたしのお友達だった前田友恵って人のことなの。前田さんの義父さんが長野の久米路峡ってところで溺れて死んじゃったの。そして義父さんの預貯金や土地などがすべて失われちゃったの。そして彼女は旦那さんと木曽の寝覚めの床の近くへ引っ越したの。そのとき、わたしに書類を預けていったの」
「なんだって！　ひょっとしたら義父さんは前田健司、友恵さんの旦那さんは前田幸一っていわない？」
「え、そうなのよ。朝見さん、知ってるの？」
「うん、実はこの前のルポで木曽路を歩いていて、長野県警の竹村警部っていう刑事さんに会ったんだ。そして聞いたんだ。寝覚めの床で前田幸一さんが、巴が淵で前田友恵さんが殺されたって。捜査は難航してるらしい」
「え、友恵さん、やっぱり事件に逢ったんだ」
　涙ぐむ末次だった。
　朝見にも慰める策もない。