じっくりと巴淵を眺める。
　――いいな、ここは。巴淵か！　いいな――
つい、独り言。

　その声に橋の中央にいた一人の男が振りかえった。
「あ、朝見さん、ここで何を」
「やあ、竹村さん、ここで何を」
「いや、僕は木曽路のルポ中なんですよ。ここがいいなあって来たんですよ」
「いや、実は、連続殺人事件がありましてね。ここ、巴淵に被害者が浮かんでいたんですよ。もう一人は寝覚めの床で発見されたんですよ。ちょっと捜査が難航してましてね。ここで少し頭を冷やしてるんですよ」
「そうなんですか、僕はこれから寝覚めの床へ行くところなんですよ」
「そうですね、事件の背景はどうやら東京らしいんでね。この前、警視庁へ行って岡部さんと池袋署の堀越さんに捜査の手伝いをお願いしてきたところなんですよ」
「まだ、返事が来てないんで状況はわからないんですが。そうですね、東京も関連してるし、朝見さんにも状況をお話ししましょうか？」
　そして竹村警部は朝見に事件についてわかっていることを説明したのだった。

　話を聞いた朝見はしばし考えていうのだった。
「そうですか、連続殺人事件ですか。竹村さんの言う通り事件の源は東京の父親の事情からでしょうね。池袋署の堀越さんはよく会うんですよ。一度、覗いてみます。父親の事情が分かればいいんですがね。頑張ってください」
「警視庁から何か連絡があれば、朝見さんにも連絡しましょう。今は連絡待ちなんです。まあ、頑張りますよ。朝見さんも、ルポ、気つけてください。また、お会いしましょう」

そういって別れたのだった。