第三章　　　安曇野から木曽路散策

 
　牛若丸の足跡を追って京都に入り、紫式部の名を重ねる女流作家の事件に遭遇して、京の街をうろうろした朝見は東京に帰ってしばらく、のんびりしていた。
　しかし、じっとしているのは心が痛む。
　どうしようかと思案しているとき、日本紀行の黒川編集長から連絡があった。
「朝見ちゃん、暇だろ。明日にでもちょっと来てくれないか。ちょっと頼みがあるんだ」
「いいですけど。どんな話ですか？　内容によっては、ＯＫ出せないかも」
「おいおい、なんてこというんだい、とにかく来てよ」
「わかりました。明日、午後一番で伺います」 

　翌日、日本紀行へ行った朝見だった。
「やあ、朝見ちゃん、いい話があるんだ。ちょっと外へ行こうか」
近くの喫茶店に行った二人だった。
「朝見ちゃん、これは今まで何度か行ったことのあるＨトラベルの大川社長からの話なんだ。木曽路のルポを頼みたいんだ。次の企画の参考にしたいんだって。もちろん、費用はＨトラベル持ちだよ。安曇野にはわさび農場があるんだって。野麦峠もいいし、木曽義仲の旗揚げの地なんかもあるんだ。巴御前が泳いだ沢もあるんだって。なんでかは知らないが、浦島太郎が居眠りから覚めた場所もあるんだって。いいだろ。大川社長の話もいいが、うちのルポにもなるんだ。たのむよ」
「へえ、そうですか。まあ、いいですよ。ちょっと行ってみたい気もしますね。いいですよ、ちょっと企画してみます。でも、かなり距離がありますね。明日にも、企画書を持ってきます」
　帰ってから、計画を練り、翌日、計画書をもっていくのだった。