県警本部から木曾警察署までは長野道を走っても二時間はかかる。

木曾警察署の捜査本部に竹村岩男警部が到着したのは、夕方だった。
竹村は署長に頼んで、ただちに捜査会議を招集してもらった。　
竹村が「信濃のコロンボ」と異名を取る、長野県警きっての名探偵であることは、木曽署の刑事たち全員が知っていて、ふだんより緊張した雰囲気で主任捜査官を迎えた。

　しかし、当の竹村は、一見したところ、顔つきや服装が、どことなく野暮ったい、ただのオッさんという印象だ。もっとも、そういうところが、テレビのコロンボ警部を髣髴させるといえなくもない。
　竹村は木曽署の捜査員が、これまでに集めたデータを聞かせてもらった。

　寝覚めの床で死んでいた男の身元は、まだ判明していなかった。
　所持品に、名刺や免許証など、身元を示すようなものが無かったのである。携帯もなかった。背広にも名前の刺繍はなく、クリーニング店の縫いとりも無かった。
　血液型はＯ型、前科があるかどうか、現在、指紋を照合中であった。
　近所の防犯カメラも照会中だった。
「とにかく、身元の確認と死因の確認が大事だね。それと、近くの宿泊施設にいたかどうかも気になる。明日から精力的に調べよう。上流から流れてきたことも考えられる。捜索範囲を広げて捜査しよう」