第二章　　　事件発生 

１　　寝覚めの床で転落死 

中山道・木曽路の景勝、寝覚の床（ねざめのとこ／長野県上松町）は、花崗岩の柱状節理でできた奇岩がそそり立ち、木曽川の澄んだ水が流れる国の名勝。浦島太郎が放浪の末、この岩の上で昼寝をし、玉手箱のことを思い出して目を覚ましたという伝説が名前の由来になっている。

　中年の夫婦が寝覚めの床を見にやってきていた。木曽路をドライブして観光していたのだ。
レストハウスの横から階段を下りる。けっこう急だね。
線路をくぐり、歩いていくと寝覚の床。巨大な石が並び、確かに床みたいになっている。
大きな石を乗り越えて一番端の石まで行く。そこまで行くのはけっこう大変だ。
滑って落ちたらきっと怪我するだろう。こんな所で落ちて怪我したら、きっといつまでも笑われるんだろうな。
「すごいね、この石畳は。ちょっといってみようぜ」
「あぶないわよ。やめて」
「大丈夫だよ」
　岩の上を跳んでいった男だったが、言われたように滑って膝を打ってしまった。
「大丈夫？」
声を聞いて「痛いけど、大丈夫だよ」といった男の目線の先に異様なものが映った。
「お、あれはなんだ？　なんか人みたいだぜ。おぼれたのかな？」
「違うんじゃない！　死んでるのよ」