しかし、投資会社っていうのは河合が作った木崎物産という仮想会社なのだ。データはすべて河合が作成しているのだった。そこから大半は大崎の懐に入るのだった。

　そして一年ほど経った頃、河合と大崎は前田と会った。
「どうです、前田さん、うまくいってるでしょ。投資金額の残高は増える一方ですよ。このままいけば、遺産は増える一方ですよ」
「やあ、ありがとう。大崎さんに出会ってよかったですよ」
「もっと頑張ろうかなと思うんですよ。私を信用していただけるなら、この書類に捺印していただけたら嬉しいんですが」
　そうして白紙委任状を突きつけたのだった。

前田はなにもいわずにハンコを捺したのだった。
「いま、私は、ちょっと行きたいところがあるんです。来週にでも長野の善光寺へ行ってみたいんです。『牛に引かれて善光寺参り』という言葉の通り、信心のない人でも一度は善光寺を訪れるべきところですよね。そこへ行って美味しいお酒を飲みたいんです。おかしいかな？」 

　そして前田は善光寺へ行き、酒を飲んで久次米峡で転落死したのだった。