《週間マンデー》へ行く。そこで代表の安倍伸二を訪ねた。
「安部さん、お久しぶりです。ちょっとお願いがありましてお伺いしました」
「やあ、朝見さん、さっき、黒川さんから電話がありました。なんでも、水野かおりさんの書いた小説についての話らしいですね。あの本は、まあまあ、売れてるんですが、いささか問題があった本でしてね。うちも、少なからず迷惑してるんです。どういうことなんでしょう」
「あの本の内容と、モデルと思われている人物の情報が欲しいんです。憶測でも結構ですが、なんらかの情報が欲 しいんです。水野かおりさんの自殺と神崎史郎さんの事故死について、いささか疑問がありましてね」

　朝見は、黒川に話した小野篁と紫式部と閻魔大王の話をするのだった。

　話を聞いた安部が深刻そうな顔をして、話してくれた。

「水野かおりさんの本の内容は、まさしく現代の源氏物語といえるものなんです。その内容は、主人公の愛の物語。平安時代の帝の子が現代によみがえり、愛の遍歴を繰り返す話だ。公家の子孫の財界人の後宮である後妻に恋焦がれ、愛してしまいます。さらに、美貌のタレント数人、空蝉（うつせみ）、夕顔、六条御息所（ろくじょうのみやすどころ）のような数人と恋をし、まさに愛の遍歴のかさねるのだった。
第二部では一転、苦悩の世界。
第三部は主人公の死後の話で、彼らを取り巻く女性との関係と苦悩が、展開されるのだ。
まあ、こんな内容なんですよ。ふつうなら、なんてことのない内容なんですがね。
　世間にはいろんな人がいましてね、モデルとなった人物を特定させて、スキャンダルに仕立てるんですよ。
　神崎史郎さんは、うちの事務所じゃない、某大手の所属なんですが、彼が主人公といわれてまして、公家の子孫といわれる財界人も想定されてるんですよ。そのせいで水野かおりさんも苦悩してました。
それが自殺の要因になったんでしょうね。紫式部の墓の前で自殺するなんて、まさしく、源氏物語ですよ。
　もう一つ、愛人といわれた一人に、ほら、朝見さんも知ってるでしょう、天城峠で発掘されたわが社のタレント、桜田美和もその一人なんです。まったく困ってしまいますよ」

「そうなんですか、それで、若手の財界人ってどなたのことなんでしょう。教えてくれませんか」
「ああ、どうせ、業界ではわかっていることですからね。ＩＴ企業の若手経営者、大泉太郎さんですよ」