「いやいや、大したことじゃないですよ。でも、たぶん、業界なら、週刊誌等の業界なら、本の内容がどんな人たちがモデルなのか、きっと想像してると思います。そんな情報がマスコミなんかを賑わしていませんか？」
「いえ、私の知ってる範囲では何にもありません」
「そうですか。じゃ、本当にないのか、それとも、関係者が大物すぎて、マスコミを抑えてるのかな。そうだ、ある週刊誌の社長を、私は知っているんです。東京に戻ったら、彼と相談してみましょう。なんか情報が手に入るかもしれません」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。この二つの事件、何とか解決したいんです。あとは十王堂ですね。その前に、すぐ近くに面白いところがあるんです。ちょっと行ってみませんか。
　少し歩いたところに釘抜地蔵ってのがあるんです。面白いところですよ」
「へえ、釘抜地蔵ね、何ですか、それ」

「まあ、行ってみましょう」

　歩いて少し行くと、釘抜地蔵なるものがあった。
釘抜（苦抜き）地蔵で知られる石像寺は、弘仁１０年（８１９）弘法大師によって開創された。本尊の釘抜地蔵尊は、さまざまな苦しみを抜き取ってくれるとか。
後に、「釘抜（くぎぬき）地蔵」と呼ばれるようになったという。

苦抜から釘抜になったなんて、まあ、伝説というのはこんなものか。
本堂には心とからだの痛みがこのようにとれましたという御礼の意味の２本の釘と釘抜きが付いた絵馬が数えきれないほど奉納されている。
すごいね、２本の五寸釘と釘抜をくくりつけた絵馬が一杯。お参りする人が絶えない。
入口の門をくぐると、大きな釘抜きの像が迎えてくれる。ここの釘抜きは、てこの原理を利用した現代風のものではなく、閻魔様に命じられた鬼が罪人の舌を抜くような、いわゆるやっとこと呼ばれる形状のものだ。
　すごいね、ここは。

釘抜がたくさんある。釘抜は苦抜きなんだよ。
その奥には約１０００枚もの絵馬がぎっしりと並べられた本堂があり、本尊の釘抜地蔵が安置されている。釘抜きと釘を額にした絵馬は、苦抜きの祈願をした方々が、願成就して苦が抜けた暁に、釘抜き地蔵菩薩様に御礼として奉納したものだ。
へえ、すっかり感心した朝見だった。