１　事件記者の疑惑

 　朝見は滋賀県・鏡の宿で京都の新聞社の栗原記者から電話をもらい、京都へ引き返した。
その夜は今日のルポをパソコンにまとめた。
予定では今日は東京に戻るはずだったが、まあ、しょうがない。明日は栗原さんとつきあおう。 

　翌日、十時ごろ、京都の新聞社へ行く。栗原は資料をそろえて待っていた。
「朝見さん、お久しぶりです。この前の事件ではお世話になりました。ありがとうございます。予定を狂わせてごめんなさい。ちょっと不可思議な事件が二件、京都で発生してるんです」
「やあ、栗原さん、お元気そうで。ご活躍なさっているようですね。それで、今度はどんなお話でしょう。僕でできることはお手伝いしますが」
「ありがとうございます。朝見さん、この前、水野かおりっていう女流作家が、紫式部の墓の前で自殺した事件を知ってますか？」
「ああ、ちらっと聞きました。それだけです」
「それじゃ、紫式部の墓の前で自殺事件と、十王堂での転落死事件の二つの事件の内容を、私がわかっている範囲で、ご説明します。」
「この事件は仕事上の悩みからの自殺として片づけられたんです。そしてつい先日、岩倉の十王堂の近くで川に転落死した事件があったんです。これも事故死として片づけられたんです」
　そして、二つの事件について警察の発表、自分で調べた結果も含めて、朝見に説明した。

　じっくり聞いた朝見は、しばらく考えて言った。