彼は三田に誘われて池袋の、鹿川の息のかかった高級クラブに行くようになった。
　西東電子って会社は、けっこう名が売れている。そこではツケで飲むようになってしまった。
あまりこういうところに行ったことがなかった岡田はすっかりはまってしまった。一人で行ったり、会社の同僚と言ったりするようになってしまったのだった。
何度か通ううちに、彼は経済的に行き詰ってしまった。それまでの貯蓄も使い果たして困窮してしまったのだった。
　高額の請求書が来るが、岡田も三田も、とても払えない。どうしようと考えているとき、三田が言った。
「ごめんね、私が誘ったことからこんなことになっちゃって。私の知っている人に頼んだらどうかしら。ダメもとでもいいから相談してみましょうよ」
「そうだね、このままじゃ、俺も君も破綻してしまう。それで、相談する人って、どんな人だい」
「うちのスナックへ時々来る人。ＫＭ企画って会社で技術面を総括している人。そこの社長がこのあたりの有力者なのよ」
　翌日、岡田は三田と一緒にＫＭ企画に行くのだった。
「水井さん、お願いがあってきたの。鹿川さんに頼んでほしいの」
「やあ、三田さんか。こちらは？」
「ああ、この前から、私がお付き合いしている岡田さんって言います。西東電子って会社で技術面を担当している人です」
「ああ、そう。きみが岡田さんか。三田さんから、ちょっと聞いてるよ。それでどうしたんだい？」
　二人は高級クラブでのことを説明した。多額の請求に困っていることなどを。
水井はそのことを聞いて、
「なるほど、わかりました。うちの社長なら、顔を聞きます。ちょっと相談してみましょう。請求を減額できるように計らいましょう。今日は社長はいないので、ちょっと待ってください。きっとうまくいくと思います」 

翌日、水井は岡田を呼び出した。
「岡田さん、話はうまくいきました。しかし、少し条件があります。あなたの会社の、ある情報が欲しいんです。それをいただければ、借金は社長が帳消しにしてくれるそうです。どうですか？」
困った岡田だったが、会社での自分の将来を考えると、そう、会社に未練が残っているわけではない。結局、岡田は条件を呑んだのだった。