受付で、岡田社員についてお話を聞きたいと申し入れた。受付の女性社員が困ったように言った。
「岡田は、とっくに退社して在籍していないんです。もう、二年になりますか。でも、警察が、何の用事なのでしょう？」
「いえ、実は先日、愛知県で事件があり、その被害者が御社に勤めていた岡田さんなんです。そうですか、退社していたんですか。出来たら、当時のことをご存じの方にお会いしたいんですが」
「わかりました。少々お待ちください。それまで、待合室でお待ちください」
　しばらく待っていると、支店長がやってきた。
「ご苦労様です。受付から聞きました。でも、岡田はすでに会社を辞めてまして、お話しすることはないんですが」
「いや、やめているのはわかります。でも、やめた事情は何なのでしょう。ひょっとしたら事件に巻きまれる何かの事情があったのでは？　その辺のことをお聞かせ願いたいんですが」
「何もないですよ。もう二年も前に辞めている人間のことは分かりませんね」
「おっしゃることは分かりますが、我々としても事件解決に必死なんです。できたら、岡田さんの当時の同僚と〝そういう人に会いたいですね」と食い下がる鈴江警部だった。
「なるほど、まあそれはそうですね。ちょっと待ってください。当時の仲間を呼びましょう」
　そういって一度席を立った支店長は一人の男性社員を連れてやってきた。
　やってきた社員は、岡田と一緒の技術担当だった。
「なぜ彼が辞めたのか、よくわかりません。突然、俺、会社辞めるよ。あとは君に任せるって言ってそのまま出勤しなくなったんです。まあ、何かあったんでしょうが、私にはよくわかりません」
　そういうと、
「失礼します。ちょっと仕事がありますので。何か思いついたら、池袋署の長谷川さんに電話しましょう。でも、思いつきませんね」
　そういって部屋を出て行ったのだった。
　こうなってはどうしようもない。
　残念な気持ちで、応接室を出て、受付の女性にあいさつした。
「お世話になりました。ありがとうございます」
　受付の女性が、
「あの、ちょっとお話が。わたし、岡田が退社してからしばらくして、池袋の繁華街で見たことがあるんです。若い女性と一緒でした。それから、時々お見掛けしています。どこか、池袋界隈にいたんじゃないでしょうか？　詳しいことは分かりませんが」
「ありがとう。何かあったら連絡ください」