パーティで隣に座った男が言った。
「朝見さんて、日本紀行にルポをよく書いている朝見さんでしょ。探偵さんとしても名が売れてる。そんな人がこんなパーティを取材するんですか？　あ、私、読日新聞の学芸部の池田っていいます。私は島崎さんのように社会部で活動したいんです。このパーティに出席するといったら、札幌で会ったらよろしく言ってくれって」
「ああ、そうなんですか。島崎さんのお知り合いですか。よろしく。でも、真冬の札幌、寒いですね。ちょっと耐えられません。早くホテルへ帰ってゆっくりしたいですね」
「こんなもんじゃありませんよ、本当の寒さは。わたし、以前、真冬のキエフに行ったことがあるんです。本当に寒かったですね。まあまあのホテルの部屋の二重カーテンの裏に缶ビールを置いておくと、ちょうどいい温度に冷えるんですよ。
　昼間でも、景色を撮ろうとしても、カメラの電池は動かずに、一枚撮ったら懐に入れとかないと次が撮れないし。ライターの火も一瞬ついて、すっと、消えるんです。懐に入れておくと、一瞬、火がつくんです。だからカメラもライターも使ったらすぐに懐にいれておくんです。
　ドニエプル川には砕氷船が走ってるし、まあ、ちょっとだけ凍った川面を歩きましたけどね。
　それから、まあ、ダイアモンドダストはきれいでしたけどね。旭川まで行けば味わえますよ。朝見さん、取材に行ったらどうですか」
「おー、寒い。脅かさないでくださいよ。私は寒いのは苦手なんですから」
「ところで、朝見さんはこれからどうするんですか？」
「私はこの後、雪像を見ながらホテルへ帰ります。明日早く東京へ戻る必要があるんです。
「そうですか、じゃ、またどこかでお会いしましょう」