あれ、さっきのパトカーが止まり、救急車もいる。こんなところで事件でもあったのかな。
　ちょっとのぞいてみた朝見だった。

　警官が阻止する。
「ちょっと、ここからは立入禁止ですよ」
「何かあったんですか？　ちょっと気になったんで」
　そこへ私服の刑事が来た。
「関係ない人は立ち去ってくださいよ。あれ、あなた朝見さんじゃないですか？　覚えてませんか？　私は鳥羽署の土田です」
「あ、土田さん、以前、お世話になりました。なにかあったんですか？」
「ああ、絞殺死体がこの先に放置されてましてね。どうも死体遺棄事件みたいですよ。朝見さんは、どうしてここへ？」
「いや、私は朝熊山を通って伊勢へ行く途中なんです。まあ、おじゃまはしませんよ」
「じゃ、お気をつけて」

　まさか、この事件が後日、自分に降りかかって来るとは夢にも思わなかった浅見だった。

「お伊勢参らば朝熊をかけよ、朝熊かけねば片参り」と伊勢音頭で唄われているように、参宮を終えた人々は、朝熊山に参詣するのが一般的なのだ。
目の前は伊勢湾、はるか知多半島や渥美半島まで見える。絶景である。