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　しかし、これ以上、井田の行動を監視するのは無理だった。あとをつけているのがばれる可能性もある。そんなに時間もない。学校の教師っていうのは結構忙しいのだ。
高田は興信所に頼むことにした。井田の行動をさぐってくれと。

　二週間ほどして興信所から報告が届いた。 

　報告それによると、井田は、毎日自宅と会社の往復だったようだ。
　一週間ほどたって、夜、飲みに出かけたみたいだった。
　池袋駅から電車に乗　　て出かけた。
　降りたのは田端駅だった。
　そこから井田はどんどん歩いて文士村のほうへと歩いていく。

　文士村は、明治２２年、上野に東京美術学校（現、芸大）が開校されると、若い芸術家が次第に集まるようになり、明治３３年に小杉放庵、３６年に板谷波山が移り住むと、吉田三郎（彫刻家）、香取秀真（鋳金家）、山本鼎（洋画家）らが次々と田端に住むようになり、親睦団体「ポプラ倶楽部」も生まれ、明治末期には芸術家による「芸術村」のようになったところだ。そこへ、大正３年に芥川龍之介、５年に室生犀星が田端に住み始め、彼らの文士としての名声が高まるにつれ、萩原朔太郎、堀辰雄、菊池寛、中野重治らも田端に移り住むようになり、大正から昭和の初めにかけて、田端は「文士村」となったところだ。

　こんな文化地区になんのようがあるのか？

　周囲を見回しながら歩く井田は、とあるビルに入った。
　注意しながら近づいた興信所の調査員はそのビルの入口近づいた。そのビルには丸井企画という名前の表札があった。停まっていた車は、この前、池袋で見たあの車だった。
　一時間ほどして、井田を乗せた例の車がどこかへと去っていった。

　との報告だった。