そこから高田はオレオレ詐欺に引っかかった経緯や、母の事故死の真相を話したのだった。このアンコールワットの旅が終わったら、詐欺の真相を暴こうと決意していることも。

　話を聞いた朝見が言った。
「お気持ちはよくわかります。でも、危険じゃないですか。もう一度よくお考えになったらいかがですか？　それから話を聞くと、なんか身近な人が絡んでるみたいですね。そんな気がしますよ。学校の懇親会の事なんか、普通ならだれにもわからないでしょう。きっと、身近にいる人が情報を発したんだと思いますよ」
「なるほど、よくわかりました。少し考えてみます。そうだ、それから、朝見さんに少しルポの材料をお教えしましょう。わたしは三重県の鳥羽出身なんですが、朝見さん、三重県と言ったら何を思い浮かべますか？」
「そりゃまあ、三重県と言ったら、真珠と伊勢神宮ですかな」
「まあ、そうでしょうね。でも、伊勢神宮に参拝する人は、その前に朝熊山に参拝するのが昔からの習いなんですよ。直接伊勢神宮に行くんじゃなくて。それから、三重県という名前、三重ってなんでそういうかご存知ですか。これは日本武尊が絡んでるんですよ。
日本武尊が伊吹山で怪我をして大和へ帰ろうとしたんですけど。ある坂道で「我が脚、三重に曲がりて」と言って亡くなったんです。そこから白鳥になって奈良へ帰ったんですよ」
「へえ、そうですか。面白いな。今度いつかルポしてみよう」
「ぜひ、どうぞ。あまり知られていない話ですが、きっと面白いですよ」

　さすが、歴史の教師だ。よく知ってるね。
　二人はそれからもしばらく話しあった。
　ふと、空を見ると星空だ。明日はいい天気かと床に就く。