第一章　　　朝見、アンコール・ワットへ

 マレーシアから帰って、ティオマン島の事件が解決して、ルポも完成し、のんびりしていた朝見に、日本紀行の黒川編集長から電話が入った。
「朝見ちゃん、ひまだろ。いい話があるんだが、ちょっと、来れない？」
　まったく、いつも、「ひまだろ」しか言えない編集長だよ。
「ええ、まあ。それでなんですか？」
「いや、こっちへ来てから話すよ。ちょっと遠くへルポに行ってほしいんだよ。まあ、会ってから話すよ」
　まあ、こういわれては仕方がない。
「わかりました。とにかく行きます」 

　午後、日本紀行へ行った朝見に、黒川編集長が言った。
「Ｈトラベルの大川社長からの頼みなんだよ。この前のマレーシアの件ですごく有難く思っているらしい。事業も順調になってるらしいよ。朝見ちゃんの書いた旅行記が好評なんだって。まあ、うちの雑誌に載せたルポも好評だったけどね。
　それで今度はアンコール・ワットのルポをお願いしたいんだって。
　もちろん、費用はＨトラベル持ちだよ。うちにもいいルポが期待できるしね。
　ぜひ、行ってほしいんだ。どうだい、いい話だろ」
「え、まあ、いい話ですけど。今度は何があるんですか。
この前は現地で事故があったんですよ。こんどはなんですか？」
「いや、何もないよ。旅行記を書いてＨトラベルの宣伝になればいいんだ。うちの雑誌にもね」

　そこまで言われては、ことわる理由はなかった。

　朝見もアンコール・ワットには少なからず興味があったのだ。
「わかりました。行きましょう。それで日程等はどうなんですか」
「よかった。ＯＫが出て。とにかく、Ｈトラベルへ行ってよ。大川社長が詳細を教えてくれるから」