ショックを受けた母親に、恵一は優しくいうのだった。
「お母さん、強情はらずに東京へおいでよ。一緒に住もうよ」
　でも、躊躇する母親だった。
　そして、母親はショックのあまり心身に不調をきたした。その矢先に、交通事故に遭ったのだった。
　恵一は考えるのだった。
　どうして俺の家庭の事情が詐欺グループに分かったのだろう。どうにも不可解だった。警察の捜査でもわからない。でも、きっと何らかのからくりがあるに違いない。

　母親の葬儀が終わってしばらくして、恵一は決心した。
　詐欺グループを暴いて見せる。母親の命を奪ったやつらに復讐してやると。
　その前に、母親の悲願だったアンコール・ワットへ行こう。

母親は口癖のように言っていた。 

　――いつかアンコール・ワットへ行ってみたい――と 

　よし、アンコール・ワットだ。そこが自分の人生の区切りになるだろう。
そこで区切りをつけよう、と。