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　一か月ほど前の四月半ばの水曜日に、女性のところに電話があったのだ。
「あ、僕。恵一だよ。今、風邪気味でちょっと声が出せないんだ。
今、とっても困ってるんだよ。職員の懇親会のお金を六百万ほど使いこんじゃって、学校をクビになりそうなんだよ。すこし援助してよ。金曜日の午後、山口ってのが行くからそれまでに工面しててよ」
　電話を聞いた母親はびっくりした。風邪気味ということで声の調子がおかしいのにも気づかなかった。
　息子が窮地に陥っているということで何の疑問も浮かばなかったのだ。

「そりゃ、大変ね。わかったわ。明日にでも銀行へ行って降ろしとくから。
山口さんだったわね。来週待ってるって伝えといて」
「お母さん、ありがとう。ありがとう」

　次の週、女性の自宅に山口と名乗る若い男がやって来た。
「高田さんから、頼まれました。受け取りに来ました」
「ごくろうさん、これです。恵一によろしく言ってね」
　何の疑問も思わず、使いの男に封筒を渡したのだった。