赤羽署の捜査は急速に進んだ。

　任意で事情を聴かれた加藤は、しばらく黙秘したうえで、結局、全面的に自供してしまった。まさか、ティオマンで自分が目撃されていたとは。現地の総督直々の捜査だなんて。
　おまけに九州ツアーで身元がばれるとは。
ここで否認しても、いずれ警察は現地での捜査に踏み切るに違いない。
　すっかり観念したのだった。 

　加藤という男は新宿でホストをやっていた。その傍ら、世界中、日本中を遊びまわっていたようだ。ティオマンではバイトをしながらカモになりそうな日本人の女の子を捜していたようだ。
　そしてあるときやって来たツアーの中に格好のカモを見つけた。こんなツアーにたった一人で参加しているとは。きっと、遊び好きでお金持ちなんだろう。
　よし、この一人でいる若い女をカモにしようと、決めた。
　レストランで接客中に話しかけた。さすがはホストをやってる。若い女の子と意気投合してしまった。
　しかし、それを添乗員に見られていたとは。
　午後になってツアーの宿泊先のＪＵＡＲＡのリゾートへバイクで行った。そこで玉木さんと会った。
　そして、夜の南十字星と海亀を見ようと近くの川べりまで誘い出したのだ。この女をものにしようとの下心を持って。
　川べりを歩いているとき、木陰から一匹のサルが飛び出してきた。びっくりした彼女は彼にしがみついたのだった。
　これ幸いと抱き寄せたのだが、「いやよ」と言われてしまった。
　かっとなった彼はつい川に突き落としたのだった。
　そして、逃げ帰ったのだ。
　これがティオマンでの事件の顛末だった。