しかし、Ｈトラベルの社長は気になってしょうがなかった。なんでこんなに不祥事が続くんだろう。誰にもわからないところで何かあるんじゃないか。
　苦悩した社長は、ふと、朝見のことを思い出した。そして朝見に電話した。
「朝見さん、実はうちの添乗員が荒川で事件に会ったんです。このまえ、朝見さんもお会いしたあの石田君です。知恵を貸してもらえませんか」
　電話を聞いた浅見はびっくりした。事情を聴いた浅見は、さっそく、赤羽署へ行くのだった。

　赤羽署には以前ある事件で知り合った毛利部長刑事がいる。
　捜査本部は静かだった。閑というのは事件捜査が進んでいないことを示している。
　毛利部長刑事は一人の捜査員と一緒に現れた。
なんと、警視庁捜査一課の岡部警視だ。
「あれ、岡部さん、ここの主任ですか。毛利さん、お久しぶりです。荒川で事件があったようですね。よければ事情を聞かせてもらえませんか？」
「ああ、朝見さん、またやってきましたね。ややこしい事件でしてね。本庁から岡部警視が主任として来てるんですよ。犯行の動機もよくわからないんですよ。ちょっと困ってます。なんか知恵を貸してくださいよ」
　詳しく事情を聴いた朝見だったが、そんなに急にいい案があるわけはない。

「捜査状況はよくわかりました。じつは、お聞きかもしれませんが、以前、マレーシアのティオマン島で日本の女性が事故死したんです。今度の被害者はその時の添乗員なんです。なんか関連がありそうな気がします。ちょっと、ぼくなりに考えてみます」
　そう言って、帰宅したのだった。