その時、前方を歩いていた加藤が連れの女に行っている言葉が聞こえた。
「暑いね、マレーシアのほうが涼しいよ。まったく、日本は蒸暑いよ」

　その言葉を漏れ聞いて、石田は、はっと思いついた。 

ーーそうだわ、ティオマンのリゾートのレストランで働いていたあの日本人だ。へえ、日本に戻ってるんだ。事故にあった玉木さんとなにやら話していたわーー 

　ツアーが終わり、羽田へ戻って解散するとき、石田は思い切って加藤に声をかけてみた。
「あの、加藤さんですよね。マレーシアのティオマン島でお会いしたことありますよね。
わたし、あの事故の時の添乗員だったんですよ」
「え、ティオマン島だって？　いや、知らないよ」
　加藤は半分びっくり、半分不安そうな顔をして否定し、あたふたと去っていくのだった。
　不審に思う石田だった。ひょっとしたら、玉木の事故は事故じゃなかったのかしら。