「わかってるよ。でも、ご両親には内密にするんだって。だから朝見ちゃんも知らんふりをしていてほしいんだ。それに、事故原因の調査は名目上のことだよ。成果が上がらなくてもいいんだ。調査を行ったという実績が旅行社の今後の経営に役立つらしいから。
　そう、旅行社の経営者は中沢重役の知り合いなんだ。
　朝見ちゃん、頼むよ、ＯＫしてよ」

　こうまで言われては承諾するほかない。朝見は心のなかに、しこりを残しながらも承諾したのであった。

　Ｈトラベルとして、今後どうしようと苦悩する経営者だった。悩んだ末、一つの提案をすることにした。
　ある日、大川社長は弁護士とともに亡くなった女性の両親と相談するのだった。
「実は今、〚マレーシアを歩く〛というツアーを企画しています。メジャーな観光地巡りではなく、マイナーな観光地を歩こうという企画です。
　旅程は一週間を予定しています。
　そして、わが社として、お嬢さんの事故に対して、少なからず責任があると認めましょう。そこで一つご提案があるのですが、お聞きいただけたら幸いです。

　もうすぐお嬢さんの四十九日になります。それを契機として、今企画中のツアーに参加していただけないでしょうか。お嬢さんが回ったマレーシアを旅して、お嬢さんの慰霊の旅にしていただけませんか。お嬢さんがマレーシアで行ったところを中心にして。　もちろん、旅費等の経費は私どもで負担させていただきます。
　ただ、条件が一つあります。ツアーですので、今のところ、人数は確定してませんが、いろんな人が参加します。
　それにわたしたちも事故がどうして起きたのか知りたいのです。今後の旅行計画のために。
そのため、ルポを、記録を書く人間を一人同行させていただきたいのです。
ルポライターは日本紀行によく記事を載せている朝見充彦という人物です。お互いに知らない人だということで。いかがでしょう」