第一章　　　朝見、マレーシアへ飛ぶ 

　天城峠の妖精の発見から、朝見はしばらく仕事がほとんどなく、暇を持て余していた。
　そこへ日本紀行の黒川社長から電話が入った。
「朝見ちゃん、暇だろ。いい仕事があるんだが、明日でもこっちへ来てくれないか？　きっと喜ぶと思うよ」
「へえ、どんな仕事ですか？　まあ、手すきですからどこへでも、どんな仕事で見行きますけど」
「いや、久しぶりに海外のルポなんだよ。リゾート地巡りだ。そう、マレーシアなんだよ。クァラルンプールからティオマン島、ボルネオを回るんだ」
「いいですね、わかりました。とにかく、明日行きます。 

　翌日、日本紀行へ行った朝見に対して黒川編集長が切り出した。
　黒川編集長が言った。
「じつはね、この企画は当社の中沢重役からの話なんだ。朝見ちゃん、記憶してるかどうかわからないが、この前、マレーシアで若い女性が事故死しただろう。その旅行社からの依頼なんだ。今度、〚マレーシアを歩く〛というツアーを企画しているらしい。この前亡くなった女性のご両親を娘さんの慰霊の旅として招待するらしい。朝見ちゃんにはツアーに参加してもらって、さりげなくご両親のお世話とルポとなぜ事故が起きたかわかる範囲で調べてほしいんだ。どうだい、マレーシア行は？」
　少し驚いた浅見だった。
「そりゃ、マレーシアのルポだけなら歓迎しますが、なくなったご両親と一緒に旅するんですか？　おまけに、事故原因を探るんですか？　そんなこと、うまくいかないですよ。ちょっと今までのルポとは趣が違いますね。向うのご両親も迷惑だと思いますよ」