死体発見の報を聞いて、日本から急遽やって来た両親だった。母親は泣き崩れ、遺体にすがった。父親は呆然とするだけだった。
　大使館職員から事情を聴かれた両親には、娘がティオマン島で死ぬなんて信じられないというのみだった。
　娘の遺体は現地で荼毘に付し、両親は遺骨を抱いて日本に戻ったのだった。
　大使館は外務省を通じて、警視庁に依頼して、ツアーの同行者たちに事情を聴くように要請した。
　女性の荷物は旅行会社から両親に戻っていた。持ち物に不審な点はない。カメラにはクアラルンプール、ティオマン島、ボルネオのあちこちが写っていた。警視庁では個別に当ったが、不審な点は見つからない。結局、日本での捜査も事故死ということになってしまった。

　しかし、両親にとっては何かすっきりしない結末だった。

　帰国した両親は旅行会社を相手に損害賠償の民事訴訟を起こしたのだった。 

　日本の旅行会社Ｈトラベルのでは、旅行でトラブルが多発していた。
　予定していた名所・旧跡に行けなかったり、現地添乗員が日本語をあまり話せなかったり、予定とは違うホテルに宿泊させられたりすることが頻発していた。

　そこへこの事件だ。Ｈトラベルの評判は地に落ちてしまい、経営者は頭を抱えていた。
　何とかしなければ。このままでは会社の先行きが危ない。
　そう苦悩する経営者の大川だった。民事訴訟も起こされているし、このままでは会社自体が危ない。