プロローグ

　２００Ⅹ年の５月、伊豆の黄金崎でのことだった。
　黄金崎は駿河湾に面し、夕日で黄金色に染まる美しい崖で知られる岬。崖の地層は猫越火山流が海になだれこんでできたもので、風化によって削り取られた岩肌が温泉水や地熱の作用によって変質・変色し、黄褐色に輝いている。
駿河湾上に浮かぶ富士の眺望がよく、岩肌が落日に染まる頃が特にすばらしいです。舗装された遊歩道が海辺と松林内と通り、岬にはここを描いた三島由紀夫の小説「獣の戯れ」の一説を刻んだ碑も立っているのだ。
　そこから延びる遊歩道の先、黄金神社の先の岩場に一人の若い女性が倒れていた。
　遊歩道を散策していた観光客の一人が発見したのだ。
「おい、あれは何だ、ひょっとしたら人間じゃないか？　様子がおかしいぜ」
「あ、本当だ。おい、警察を呼べ」
　あわてて１１０番したのだった。
「黄金岬の遊歩道の先の岩場に人が落ちています。よくわかりませんが、すぐ来てください」
　すぐに、下田警察署宇久須警察官駐在所から駐在所員がやって来た。相次いでやって来た救急車だった。救急隊員が少し見ただけで死んでいるのは明らかだった。やがてやって来た下田署の刑事が捜査にあたった。