事情を説明した捜査員に男が言った。

「チェックアウト寸前の急な電話だもんでびっくりしましたよ。彼の奥さんにはわたしから連絡しました。今日中にはやって来るでしょう。昨夜は彼が来ないのでどうしたのかなとみんなで心配してたんですよ。このメモには心当たりはありません。さっぱり事情は分かりません」

　夕方やって来た男の妻は、泣き崩れながら、思い当たることはないというのだった。
「土曜日の朝、夫は新幹線で岡山経由で道後温泉に向かったんです。その時は何にも不審なことは感じませんでした。どうしたんでしょう。このメモもさっぱりわかりません」

　会社は全国各地のイベント会場で、コンサートや展示会を主宰する会社だった。
そして年一回の慰安会を各地で実施していた。来年は松山で大きな展示会が予定されており、下見を兼ねて道後温泉で慰安会をしたのだった。

　社員たちに各地の事情を知ってもらうために会場のホテルだけは予約して、そこへ集合するのは自由なのだ。実際、四万十川へ行ったり、しまなみ海道を通ってきたりする社員がいるのだ。