第一章　愛媛松山・愛媛宇和島・高知四万十川

　出雲のルポから帰った朝見は、そこでかかわった事件が決着して少し虚脱状態だった。なんでいつも事件にかかわってしまうのか、いささか反省している日々だった。こんなことが続くと、検察幹部の兄にも迷惑が掛かってしまう。
もう、事件への関与はやめよう、そう心に決めた浅見だった。

　そこへ日本紀行の黒川編集長からの電話があった。
「朝見ちゃん、ひまだろ。朝見ちゃんにぴったりの企画があるんだけど、どうだい。一度こっちへ来てよ」
「編集長、そりゃ、まあ、少しは時間がありますが、そういつも暇ってことないですよ。ところで、今回は何ですか？」
「まあ、一度来てよ。こっちでゆっくり説明するよ。明日、待ってるからね」

　翌日やって来た朝見に黒川が言った。
「朝見ちゃん、前にも言ったけど、以前、別府へ行ったとき、別府湾の向こうに四国が見え、右手のほうに佐賀関の煙突が見えたんだ。きれいな景色だったんだ。目の前が豊後水道なんだ。豊後水道,佐田岬あたりを一度ルポしてくれないか」
「え、編集長、また大分ですか？　大分っていえば別府温泉しか思い浮かびませんけど、そんなところは有名すぎて情報はあふれかえってますよ。まあ、この前の国東半島はよかったですけど」
「そうなんだ、そこに朝見ちゃんの出番があるんだ。四国の左半分をルポしてきてよ。お遍路さんはもういいよ。情報があふれてるしね。佐田岬とか、宇和島とか、四万十川とかどうだい」
「いいですけど、結構経費がかかりますよ。大丈夫ですか？」
「まあ、しょうがないね。でも経費は切り詰めてよ。東京から車で行けとは言わないけどね」
「わかりました。遠いところだし、あまり知らないところですから、ちょっと、計画を立てますよ。来週ぐらいには行けると思いますけど。多分、二、三日くらいかな。交通費も結構かかります。旅費の前借、お願いしますよ」
「いいよ。やってよ。来月号に載せよう。頼むよ」