そして加藤が東京へ戻った日の夕方、山下が殺害されたのだ。犯人の手がかりは全くつかめない。唯一の手がかりはＫ商事から始めるほかなかった。

　Ｋ商事を調べれば調べるほど、その実情が分ってきた。投資した資金が戻らず被害に遭ったのは数十人もいた。大半が数百万円以下だったが、十人ほどは被害が数千万にものぼる被害者がいた。彼らは山下が殺されたのは自業自得だと言うのだった。

　経営者の山下が殺されて、Ｋ商事は顧問弁護士が取り仕切っていた。しかし、その実情が世間に知れ渡り、被害者の会が結成され、大きな社会問題となっていた。

　犯人はこの被害者の中にいるのかもしれないと考えた島根県警は、Ｋ商事を捜索し、パソコンを押収した。そこに記載されていた被害者を個別に当るのだった。
　各地の警察を通じて当った結果、そのほとんどは怒りに燃えていたが、当日はすべてアリバイがあり、白だった。

　ただ二人の所在が不明だった。輪島の山田という若い男と滋賀県の小野という若い女だった。二人から事情を聞こうとするが、輪島にも大津にもいない。どこへ行ったのか、現地の警察でも行方がつかめなかった。

　いまやどうやったらいいのか途方に暮れる島根県警だったーー

　井出警部から実情を聞いた朝見はしばらく考えた。

「ああ、この大津の小野って女性、名前だけは知ってますよ。たしか父親が騙されて無一文になったって聞いてます。彼女、因幡の白兎なんですよ。一度会ってみたくて大津まで行ったんですけどね。会えなかったんですよ。一度会ってワニ海岸のエピソードをききたかったんですよ」

　朝見は因幡のワニ海岸でのエピソードを説明するのだった。