男に誘われ人気の少ない遊歩道を歩いていた山下は、遊歩道の先崖の下の岩場に連れていかれた。岩場の先は崖に隠れて遊歩道からは見えないのだ。
「こんなところへ来て、何するんだよ。加藤なんかいないじゃないか」
「そのうち来るよ。海がきれいじゃないか。ゆっくり楽しもうぜ」

　きれいな海を眺めて油断した山下はいきなり後頭部を鈍器で殴られ、倒れた拍子に石畳で頭を打ち失神してしまった。そして、男に蹴られて海に落ちてしまった。この怪我が致命傷でなくとも、意識不明だ。きっと溺死するだろう。
「ざまあ、見ろ！　自業自得だ。ゆっくりあの世へ行けよ」
　そう言って立ち去る男だった。

　駐車場で一人で待っていた由紀のところへ山田が寄ってきた。
「あれ、あの男、山下を連れていった男が一人で戻って来たよ。山下がいない」
「変ねえ、まあ、もう少し待ってようよ｣
　さらにしばらく待っていると、パトカーと救急車が大挙してやって来た。
「何なのかしら。事故かしら。覗いてみようか」
　野次馬に混ざって二人は遊歩道の方へ向かった。その先に警官に囲まれて担架に載せられた男の死体が見えた。
「あ、あれ、山下さんじゃないの。ここにいてはまずいわ。戻りましょう」
　二人はびっくりしたが、警察には何も告げずに、そのまま東京へ戻ったのだった。