契約書類に不備はなかったのだ。由紀は余りにも非情な会社だと思ったが、法的に問題ないのだった。人伝に調べた結果、いろんな問題のある会社みたいだった。でも、顧問弁護士の力量で特に問題とはなっていなかった。
　会社に騙されて、父の遺産をすべて取りあげられてから、女は東京へ出て、新宿のスナックで働いていた。因幡の白兎と言われた若さと美貌を武器に、夜の店を転々とした。父の敵を討ちたいとの一念で生活していたのだった。

　そしてある日、自分の先祖らしい小野一族をたどって、小野町へやって来て事故に遭ったのだった。
　父の仇をとるためにどうしよう、悩みながらなんとかその日暮らしをしていたのだった。
　女は　資産運用会社、Ｋ商事の実情を探るため、興信所に依頼した。

　そして、ようやく、Ｋ商事の経営者、山下哲治を特定したのだった。そして彼女は彼の日常に何か特異な点がないかそっと跡をつけて探るのだった。

　その最中に、彼女は山下哲治の跡をつけるもう一人の男を見つけた。彼も山下哲治の跡をつけていたのだ。不思議に思った女が声をかけた。
「もし、ちょっとお聞きしますが、貴方、あの山下哲治っていう人の跡をつけていますわね。よくお見かけますわ。どんな事情なんでしょう。ひょっとしたら、貴方もあの男に恨みを持っているのでは？」
「ああ、貴女もよく見かけますね。そうか、貴女も彼をさぐっているんですね。僕の家庭も彼によってめちゃめちゃにされたんですよ。ひょっとしたら、私たちは同志じゃないのかな」

　二人はお互いに山下による不幸を背負った人間だった。ふたりとも山下に復讐するために、かれの弱点をさぐろうとしていたのだった。