女は母親を早くから失って、父と子の二人暮らしだった。父は大津・和邇の地でひっそりと暮らし、女は大津市内でＯＬをしていた。

　そしてある日、父親が心臓麻痺で突然亡くなったのだった。父親が亡くなって、近所の人たちの助けを借りてやっとのことで葬儀を催して数日後、東京から一人の弁護士がやって来た。
　資産運用のＫ商事からの依頼を受けていた。

「実は、あなたのお父さんが、遺産の運用をＫ商事に委託していましてね。多分、あなたにのこす遺産を増やすつもりだったんでしょうね。でも、仮想通貨の価値が大きく変動しましてね、資産の価値がほとんどゼロになったんですよ。契約条件では運用によって資産価値がなくなれば、お父さんの遺産はすべてＫ商事の所有になるんです。これが契約書類です。法的に見ても問題はありません。お父さんの資産はすべてＫ商事のものなんです」
「え、そんなこと知りませんよ。どうしたらいいんですか」
「とにかく私としてはお父さんの資産をすべてＫ商事へ移します。簡単に言えば、あなたは自分名義の貯金以外に資産はないってことです。この家も、すぐに退去することになります」
　女は困り果てて知っている伝手をたどって調べたが、どうしようもなかった。

　父親には運用すべき預貯金がほとんどなかったので、家屋敷を抵当にしてＫ商事から資金を借り、運用に回していたのだった。運用が行き詰ったのか、それとも故意に行き詰らせたのか、兎に角、運用は不備に終わってしまったのだ。
その知らせのショックで彼は心臓麻痺を起こして亡くなったのだった。