いいね、この宿場も。うろうろして、道の駅に戻り、ベンチに腰掛けて少し休憩する。
ここの宿場もいいなあと、考えていると、遠くからびっこを引いた女が歩いている。
　あれ、びっこを引いてる。このところ、何度もあったあの女だ。

やってきた女が朝見の隣のベンチに座り込んだ。辛そうだ。
　朝見が声をかけた。
「どうかしましたか？　足がいたそうですね」
「ええ、ちょっと、挫いちゃって。でも少し休めば大丈夫です」
「あなたとは、昨日から、何度もあってますね。鯖街道を巡ってるんですか？　なんか事情がありそうですね。あ、いや、私は決して怪しいもんじゃありません。雑誌社に頼まれて鯖街道をルポしてるんですよ」
　女は朝見をじっと見つめてから言った。
「ルポですって！　雑誌社ですって！　あ、思い出したわ。ひょっとしたら朝見さんじゃありませんか？　「日本紀行」によく記事を書いている朝見さんじゃありませんか？」
　いきなり名前を呼ばれてびっくりした朝見だった。
「え、僕を知ってるんですか？　僕には全然わからないけど」
「じつは、わたし、Ｋ書房に勤めているんです。時々、遠くから何度かお顔は拝見してますわ」
「へえ、そうなんですか？　ぜんぜんわからなかったなあ」
　二人はそこから少し親密さを増して、いろいろと話すのだった。

　女は江藤美樹と言った。鯖街道を巡っているのだ。
「ここで朝見さんに会うとは思わなかったわ。わたしは、いま、ちょっと困った問題を抱えているんです。朝見さんの探偵としての評判は訊いてます。一度お会いしてご相談したかったんですよ」