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　その週末、金曜日だった。
　桜井は新宿の事務所に出かけた。そこでアルバイトで勤務している市川を待つのだった。
　やがて、市川がやって来た。
「あれ、本多さんは？　いつも先に来ていたのに」
「やあ、市川君、実は、君にはまだ連絡していなかったんだが、ここでの仕事はもう終わりなんだよ。急に社長の意向で終わっちゃったんだ。もう、何もする必要がなくなったんだ。それを告げに、ぼくがきたんだよ」
「へえ、そうですか。じゃ、ぼくはもう必要ないんですね。困ったなあ、これからどうしよう」
「君が困るのは、よくわかってるよ、だから俺が来たんだ。今までの給料と臨時の退職金を払おうと思ってるんだ。さあ、受け取りたまえ」
　そうして、桜井はかなりの金額の入った封筒を手渡した。
「ありがとうございます。でも、僕はこれからどうしようかな？」
「なに、君の行く末は僕が考えてあげるよ。ところでどうだ、君は歴史が好きだと聞いた。一度、武田信玄の足跡をたどってみないか。明日でよければ、俺ともう一人の歴史好きの仲間が案内するよ」
「ありがとうございます。いいですね。甲府へは一度行ってみたかったんですよ。韮崎にもね」
「よし、判った。じゃ、明日、新宿駅で待っているよ」 

　翌、土曜日、二人は新宿駅１０：００発の、特急あずさ９号で甲府へ向かった。
　桜井はいつもとは少し違う恰好をしていた。
白いジャンバーとサングラスで変装していたのだ。　二人が着いたのは十一時過ぎだった。
「さあ、着いたぜ。今から、楽しもうぜ。あ、それからもう一人の相棒は少し遅れて車で来るんだって。それまで、二人で甲府を歩こうぜ」
「わかりました。よろしく」

　甲府といえば武田氏だ。まず、武田神社へと向かった。
　ここは武田信玄の躑躅ケ崎館の跡なのだ。神橋を渡って神社の中を散策する。武田神社といえば有名なのだが印象としてはもう一つだ。信玄公御使用の井戸なるものがあるが濁った水があるだけ。なんだいこれは。
　宝物館は有料だ。ウロウロしていると武田水琴窟があった。いい音色だった。
　すぐそばにあった姫の井戸、信玄公ご息女誕生の際、産湯に使用されたらしい。
　この井戸の水はいいね。冷たいいい水だった。
　適当に神社と躑躅ヶ崎館跡を散策する。