翌週、火曜日の夕方、本多は言われた通り、池袋の近くのビジネスホテルに、三日間予約して、新宿の事務所に出かけた。
　桜井はもうそこで待っていた。
「やあ、本多君、ご苦労さん。ところで、過去のデータはどこにあるのか、教えてくれ。後ですべてのデータを消去させておきたいからな。社長は、今までのことを忘れるために、データを消したいっていうんだ」
「いいですよ。じゃ、データを消去します」
　社長が不正をやめると聞いて、すっかり安心した本多は、言われるままにパソコンを操作して、ディスクからすべてのデータを消去した。それを見た桜井は安堵するのだった。
　でも、実はデータはすべてコピイしてあったのだ。彼女のネックレスに隠して。
「ありがとう、これでＯＫだよ。明日また、残務整理で事務所で会おう。さて、今から一杯飲みに行こうじゃないか」

　二人は近くのスナックで痛飲したのだった。社長の改心に安心して、すっかり気持ちよく酔っ払った本多は、いい気持になって桜井と別れて池袋へ向かった。
　それをじっと見送る桜井だった。

その後ろに総会屋とその仲間が一緒に見送っていた。
　総会屋が仲間に言った。
「いいか、俺は車で池袋まで行く。トキワ通りで待っている。俺は少し遅れるかもしれないから、お前は、あの男、本多と接触して、俺が連絡するまで、近くで引き留めておけ。携帯とバッグを取りあげろ。忘れるなよ。あの男の情況を逐一電話してくれ。俺が車を発進させたら、そのあと、自分の車で中央道談合坂ＳＡまで行って、俺が行くまで待ってろよ。わかったな」
「わかりました、ボス。お任せください」
　総会屋は近くのパーキングから車を出して、池袋駅近くのトキワ通りに向かった。跡をたどられないようにわざわざ、池袋から離れた新宿に駐車していたのだ。
　もう一人の若いのは、本多を追って、山手線に乗りこんだのだった。
　池袋駅で降りた本多は、いい気持になってホテルへ向かうのだった。
　そこへ、一人の若い男が近寄ってきた。
「本多さんですね、私、桜井さんの知り合いなんです。どうです、もっと飲みに行きませんか｣
「ああ、桜井室長のお知り合いですか。いや、僕はもういいです。それより少しばかり休みたいですね」
「じゃ、そこの公園で休みましょうか」
　男は本多を近くの公園に誘い、様子を見計らって、一発、後頭部を殴った。
　酔っ払った本多は半分気を失ったようだった。
　男は、バッグと携帯を取りあげて、その場を去った。
　そして少し離れたところから様子をうかがっていた。そして目覚めた本多の状況を総会屋に知らせるのだった。
「いまです、本多が歩きだしました。トキワ通りを横断するようです」
「よし、判った。ああ、見えるぞ。じゃ、またあとで」
　そのあと、本多はトキワ通りで総会屋の車にはねられたのだった。