指示された桜井は翌日、本多を呼びだした。
「本多君、社長から聞いたよ。君の言うことは分かった。とりあえず、君はこれから手を引いてくれ。来月から名古屋支店の営業に移ってくれ。そこで営業の現場を経験してくれ。将来の君のためにな」
　否応はなかった。
「わかりました、そうします。でも、後始末もありますから、時々あの事務所には出入りしますよ」
　名古屋支店長はこの不正についてはなにも知らなかったのだった。本多は営業担当として勤務する毎日だった。
　本多の名古屋転勤後は、事務所には社長室長が出入りした。週末にやって来る手伝いの男も実情を知っているみたいだった。
　やはり、この男も排除が必要か？ 

＊

　しばらくして、社長の知り合いで出入りの総会屋が呼ばれてやってきた。Ｎ物産の株は社長が６０パーセントを握っていた。株主総会などはこの総会屋が取り仕切っていた。総会屋は、社長の不正を知りながら、株主総会を取り仕切っていたのだ。そして、かなりの報酬を得ていたのだ。そして不正の実務は社長室長と本多がとりしきっていたのだ。
　そこで彼らは不正が発覚するのを恐れ、本多と市川の排除を計画したのだった。
　相談を受けた総会屋は、「少し時間をください。ちょっと考えてみます」といって、その日は帰ったのだ。

　数日後、再びやって来た総会屋が計画の概要を説明する。 

　――社長から事情を聴いてから、俺なりにどうするかいろいろと考えたんだ。そして、一応計画ができた。今から説明するよ。何か異論があったら言ってくれよ。
　まず、車を盗む。そしてナンバープレートも盗む。　二人排除するんだから二台が必要だ。できるだけわからないようにしよう。
　一台は大阪で、もう一台は横浜で盗もう。
　本多の場合は、時々、事務所に来るのだから、桜井室長、あんたが、一杯飲もうと誘い出すんだ。そして池袋あたりで、携帯を取りあげる。携帯の通信履歴は証拠となるものが残っている可能性が高いからな。
　そして泥酔させ、交通事故に擬して排除しよう。運転手は俺がしよう。場所は池袋駅近辺がいいな。おれは、けっこう、東京の地理に詳しいんだ。特に池袋周辺はね。昔は東京でタクシーの運転手をしていたんだよ。
　本多を排除したら、車はそのまま、逃走させ、どこか高速道路のパーキングに乗り捨てる。そこでおれは仲間の車に乗り換えて、逃走する。
　こうしたら、監視カメラに車が映っていても、どうしようもあるまい。