第三章　陰謀

　東京の中堅商社、Ｎ物産。
　会社は創業者の社長のワンマン経営だった。実権は社長が全てを握り、その下で社長室の人間が取り仕切っていた。ワンマン社長は、美術品マニアだった。会社の経理を操り、会社の資金でいろんな美術品を買っては私腹を肥やしていたのだ。
　こうした不正の実務は社長室長と彼の意を受けた社員が担っていた。
　さすがにこんな悪事は、社内では出来ない。彼は会社の近くに小さな事務所を借りて、ワンマン社長の悪事の一端を担っていた。毎週、その事務所に出入りしたのだった。

　手伝いの男が一人いる。彼は週末だけのアルバイト的な勤務だった。しかし、税理士の資格を持っていて、経理上の不正を担っていたのだ。
　社長室長以下、三人はそれなりの報酬を受け取っていた。
　しかし、長年にわたる不正に、彼、本多はこんなことをしていていいんだろうかと思うようになった。
　そして、悩んだ末に、ある日、社長室長を通じて創業者の社長に進言するのだった。

「社長、一つお話することがあります。これ以上、不正をすることには、わたしには耐えられません。会社としても、いいことじゃありません。
何も知らない一般社員を裏切ることになります。いい加減に清算してもらえませんか」
「おいおい、ちょっと待て、今までのことで君にもかなりの利益があったはずだ。それにわが社は俺の会社だぞ。株式もほとんど俺が握っているんだ。
おまえに、あれこれ言われることはない。今まで通りにやるんだ」
　社長にこう言われては、本多としては引き下がらざるを得ない。彼自身もこの不正で、かなりの利益を得ているのだから。

　数日後、社長の大下は、社長室長の桜井と相談するのであった。
「本多は少しおかしくなってるぞ。どこかから入智慧されてるのかもしれない。このままだと、あいつは何をしでかすかわかったもんじゃない。どうしたらいいだろうかな？」
　桜井も困惑した。かれもこの不正のおかげでかなりの私腹を肥やしているのだ。
いや、むしろ、この不正は彼が主導して行っているのかもしれない。
「このままでは不正の発覚は免れないでしょう。
発覚すれば、会社の評判はがた落ちになります。わたしたちの失脚は免れません。何とかしなければ」
「よし、俺の知っている総会屋に相談しよう。あいつも利益を得ているから、話に乗ってくるはずだ。それしかないな。とりあえず、本多をこれから外そう。名古屋へ飛ばそうじゃないか」
「そうですね。いいでしょう｣