東京へ出張した捜査員は、彼のマンションの近辺を聞き込みに回った。そこそこ立派なマンションだ。日頃からあまり人が出入りしてなかったみたいだ。家宅捜索の結果も満足いくものではなかった。
　しかし、そこそこの優雅な生活をしていたようだ。貯金も数百万円残っていた。
　かれはどんな生活をしていたのか？　週三日の契約社員だけでは、こんな優雅な生活はできないだろう。じゃ、残りの日々はどうしていたのか。
　どうにも状況は判らなかった。

＊

　韮崎署では近隣の監視カメラも当った。
　その結果、男は横浜ナンバーの車でここまで来たことが判った。調べた結果、車は横浜で盗まれた盗難車だった。運転していたのは中年の男だった。さらにあちこちと監視カメラを調べた結果、車は甲府駅までたどることができた。そこで男が乗りこんだのが確認されたのだ。
　甲府駅の監視カメラには、男がもう一人の男とやって来たのが分った。
　さらに、市内のカメラを当ると、武田神社などを散策していたようだった。街中の監視カメラには一人の男と市内をうろうろした様子が映っていた。しかし、同行の男とは駅で別れたようだった。男が一人でＪＲに乗るのも確認された。
　どうもこの男は関係ないようだ。
ひょっとしたら、電車で知り合った男かも知れない。武田信玄に意気投合して一緒に回ったのかもしれない。そう考えるのが妥当なようだった。
　男は一人になって、近くで食事した後、駅前に戻り、車を待っていたようだった。

　男の所持品には携帯はなかった。しかし、小型のデジカメがあった。カメラの写真を調査すると、男はあちこちを散策していたようだ。
　武田家発祥の地「にらさき」。信義公以来の祈願所「願成寺」、氏神であった武田八幡宮など武田家にゆかりの深い神社仏閣が点在している。武田八幡宮はうっそうとした山の中に在る。見下ろすとはるか下のほうに七里岩が見える。ここは平安時代末期、武田氏の祖、信義が氏神として尊崇したのを初めとして、代々同氏の庇護を受け、現存の本殿（重要文化財）は天文１０年（１５４１年）１２月の完成で国主になってからの信玄最初の仕事とされている。また、天正１０年２月１９日に勝頼の妻北条夫人が当社に夫の武運長久を祈る願文を納めている。武田八幡宮は武田家の氏神であり、武田信義公以来代々の祈願所とされ、信玄公の再興による本殿は、国の重要文化財に指定されている。