連絡を受けた池袋署が事故死した男と周囲を捜索した。
　監視カメラも調べまくった。
　事故死した男には所持品はなかった。ただ、男の胸ポケットに一枚の手札サイズの写真があっただけだった。白い大きな帽子をかぶった若い女が一人写っていた。
　顔は隠れていて定かには判明しない。
　何かの碑の前で映っている。碑には「鯖街道」とあった。
　「鯖街道の女」か！　果たして事件とどんな関係があるのか？

　池袋署では近くの監視カメラを徹底的に調査して、事故車が走った経路を割り出した。
　車は、都内を抜けて中央道に入ったことが判った。
　中央道を捜索するうちに、中央道・談合坂ＳＡで事故を起こしたらしい車が駐車されているとの連絡がＳＡからあった。逃走した車が発見されたのだ。しかし、誰も乗っていない。ＳＡの監視カメラにも、運転手らしい男は写っていない。ＳＡの隅っこに停車してあったのだ。カメラの届かない、隅っこなのだった。
　車は盗難車だった。しかも大阪で盗まれた車だった。ナンバープレートも盗難品だったのだ。
　車には指紋もなにも、手がかりになりそうなものは、一切、残っていない。きっと、盗むときも、ずっと、手袋をしていたんだろう。きっと、ここで仲間の車に乗り換えたのだろう。もしくはＳＡ併設のコンビニから一般道へ逃げたのか？
　ＳＡ近辺の監視カメラにも何も映っていない。手がかりはなかった。

　池袋署は大阪府警に、盗難車の件で照会した。しかし、車は三か月ほど前に、大阪ミナミの裏道で盗難に遭った車だということが判っただけだった。大阪府警でも、車の盗難に関して捜査は行き詰ってしまっていたのだった。
　車の追跡はここで終わってしまった。
　池袋警察署での捜査はさらに続いた。
　しかし、事故死した男は何も持っていなかったのだ。捜査を続けるうちに、事故現場近くの公園で被害者が一人の男と揉みあっていたことが分った。所持品がないということは、盗難に遭ったのだろう。
　しかし、男の身許も分らない。どうしようもなかった。
　種々の情況を考えると、これは単純な交通事故じゃない。事故に見せかけた殺人事件じゃないのか。そう考えた池袋署だった。

　三日後、近くのビジネスホテルから池袋署に情報が入った。泊り客が連絡のないまま、帰ってこないというのだ。客は三日分の宿泊代を先払いしていた。毎日戻るかどうかわからないので、心配しないようにと、とにかく三日分の宿泊代を払っておくよ、と言っていたそうだ。
　ホテルに赴いた池袋署の刑事は、宿泊したときのチェックインの書類を確認した。
　被害者の写真を見せられたホテルの従業員は、泊り客を事故死した男だと、断定した。
　チェックインの書類に記載されていた男の名前と連絡先を当った池袋署だったが、いずれも偽りだった。どうにも打つ手がない。
もう一つ手がかりは男のポケットに残っていた写真の女だ。
　しかし、この女の正体も分らなかった。