エピローグ

　一週間、朝見は文殊のルポもまとめながらも、悶々としていた。
　その週の終わりのある日、石井健一から電話があった。
「朝見さん、私は明日、午後の便で成田から飛びます。ご迷惑をおかけしました。多分、もうお会いすることはないでしょう。ありがとうございました」
　それで電話は切れた。

　石井は予定通り、成田空港に現れた。
　紛争の地へと旅発つのだ。それが彼の考えた自分なりの責任の取り方なのだ。
　成田空港まで行って、遠くからそっと見送る朝見の胸中は複雑だった。
　朝見の兄は、最高検察庁に勤務する検事なのだ。
　検事の身内としてこんな結末が許されるのか。
　いよいよ、探偵まがいの行動を止めよう。

　　　　　　　　　＊

 翌日、朝見はソアラを駆って、京都・宮津へ向かった。神田嬢へ報告するのだ。おまけに宮津の文殊の取材も残っている。
　天橋立に着いて、市役所の神田綾香に電話した。
「神田さん、朝見です。今、宮津に来ています。僕に分かっていることをすべてお話します。明日は土曜日ですし、籠神社でお会いしましょう。海部宮司にも会いたいし」

　翌日、朝見は神田綾香と一緒に籠神社へ行った。以前取材で会った海部宮司に会いたかったのだ。
「宮司さん、ご迷惑かもしれませんが、話を聞いてください。天橋立の事件と四つの文殊で起こった事件のお話です」
　二人に対して、朝見は知りえた情報のすべてを話したのだった。
　神田綾香は事件の詳細を知ると、その結末にも納得した。これで心が静まるわ、といってくれた。
　事情を知らなかった海部宮司は、話を聞いて、びっくりした。
　しかし、海部宮司も、三文殊での事件についての朝見の処置に賛成してくれた。
「さすが朝見さん、よくやってくれましたなあ。これ以上のことはできませんね。アマテラスの思召しかもしれません。これでよかったと思います」
　すべてを話して心が安んじた朝見だった。
「僕はこれから、宮津の文殊をもう一度取材します。そのあと、京都へむかいます。
また、いつか、どこかでお会いできるでしょう」

　朝見はそこから文殊のあたりを散策し、京都縦貫道・舞鶴自動車道で京都へ向かった。目的はただ一つ。新しく自分の生活を始めるために、亀岡の足利尊氏の旗揚げの地、亀岡の篠村八幡宮まで行くのだ。
　そこで自分の新しい生活を祈願しよう。
　舞鶴自動車道・篠山ＩＣで降りる。京都縦貫道のほうが早いのだが、篠山にも寄っていきたかったのだ。
　篠山でもいろんなことがあったなあ。数々の事件が思い出される。
　少しだけ、篠山市内を巡る。
　そして亀岡へ向かった。