そうして石井は今までのことをすっかり朝見に話したのであった。

　聞き終わって朝見は深い感銘を覚えた。
　とくに、亀岡文殊での河野氏との対応について。
「わかりました。あなたのおっしゃることはすべて信じましょう。しかし、故意か偶然か知りませんが、二人の命がなくなっていることは事実です。このまま、放っておくわけにはいきませんよ。石井さん、この後どうするのですか。もし、自首するなら、私も送っていきますよ」
「いや、私は私なりに考えていることがあります。できたら一週間ほど時間をいただけませんか？」

　そこから二人は駒込まで、考えに沈みながら、黙ったまま歩いた。石井の家は駒込の先にあるのだ。古河庭園の前の下り道をとことこと無言で歩く。しばらく歩くと、山手線唯一の踏切・第二中里踏切がある。その手前に小さなお寺がある。そこへ立ち寄った石井が言った。
「朝見さん、実は、私は海外へ行こうと思っているんですよ。紛争の地へね。紛争に巻き込まれて苦しい生活を送っている子供たちをたすけたいんですよ。
　私も淋しい思いをしましたからね。幸い、私は天涯孤独の身です。
　来週、会社に辞表を出して、成田から飛びます。まず、スーダンへ行く予定です。今後、その辺で私の消息を聞くこともあるでしょ。それが私にできることなんです」