第六章　朝見充彦、乗り出す

　朝見は神田綾香のメールで、宮津の天橋立での事件を知った。文殊菩薩から離れた海岸で溺死したようだが、かたき討ちの岩見重太郎の碑に『文殊の呪い』の札が貼ってあったこと、国東の文殊仙寺でも『文殊の呪い』の札があったことを思い出した。両方とも〚文殊の呪い〛なのだ。不思議だ。
　なんか裏の事情があるぞ。
　朝見の提言で大分県警と京都府警が共同で捜査に当たっているようだが、成果は上がっていないようだった。
　これは何とかしないと、そう思った朝見だった。 

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 興味を持った朝見は、翌日、読日新聞へ行った。ここの社会部の島崎幸雄記者とは、山口県でのある大物政治家の絡む事件のときに知り合ったのだ。それから新聞社の全国ネットエアークを利用させてもらった、いろんな情報を受けたり与えたりする関係になったのだ。
「島崎さん、大分・国東の文殊仙寺と京都・宮津の文殊の近くで事件があったのを知ってますか？　どちらにも『文殊の呪い』って書いた札があったみたいですよ。大分県警と京都府警が共同で当たってるみたいですけど。成果は上がっていないようですが」
「へえ、そうですか。文殊の呪いのことは、ちらりとは訊きましたが、詳しいことは分かりません。なんかすごいことになってるんですか？」
「ええ、僕もよくわからないんですよ。残りの二か所の文殊でなにかおきていないかな、と考えてるんですけど」
　島崎記者は、新聞社のネットワークを通じて情報を集めてくれると約束した。
「いいですよ、わが社のネットワークを通じて山形・亀岡文殊と奈良の安倍文殊でなにか事件があるかどうか、の情報を集めましょう。でも、朝見さんがこういうからには、なんかあるのですね。わが社にも何か見返りをお願いしますよ」
「わかりました。まだ、何ともわかりませんが、その時はご相談しましょう」

　数日後、島崎記者から電話があった。
「データは集まりましたよ。こっちへ来て下さい。集めた情報を提供します」
　翌日、読日新聞へ訪れた朝見に島崎が情報がもたした。
「亀岡じゃ、何にも起きてないが、奈良では十年ほど前に殺人事件があって、迷宮入りになったそうです。詳しいことはわからないけど、わが社の大阪本社からの情報です。とりあえず資料をお渡しします」
　そこには迷宮入りとなった事件の概要があった。
　殺された被害者は《噂の情報》の経営者。実行犯とおぼしき人物は事故死。迷宮入り。とあった。

　朝見は「日本紀行」の黒川編集長に相談に行った。
「《噂の情報》だって？　あの評判の悪かった雑誌かい、今は《週間マンデー》と名を変えて同じようなことをしてるよ。朝見ちゃん、何の用だい、まさか、売込みじゃあるまいな。《週間マンデー》の社長は安倍と言って、これまたあまり評判は良くないよ」
　朝見は黒川に頼んで、安倍社長に紹介してもらった。

「安部社長、「日本紀行」の黒川編集長からお聞きでしょうが、私はルポライターをしている朝見と言います。以前に、《噂の情報》から《週間マンデー》へと変わったあたりのことを教えてもらえませんか。情報誌の変遷に少し興味があるんで｣